摂食障害治療ガイドライン
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摂食障害治療ガイドライン

『摂食障害治療ガイドライン』 引用部分

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精神科合併症について

精神科を受診する摂食障害の過半数が何らかの併存症を有しており、併存症をもたない摂食障害のほうが稀です。(p.262)

摂食障害患者における併存症としては、気分障害、不安障害が最も多く、他にパーソナリティ障害、薬物・アルコール依存があげられます。(p.30)

摂食障害患者にうつ病が併存していると、治療に大きく影響します。抑うつ的思考や欲動の減退は、患者が変化する可能性に希望をなくさせ、治療に頑張れる能力を損ないます。(p.185)

アルコール・覚醒剤依存を併存した摂食障害は難治性であり、転帰不良であることが多いということがわかっています。(略)追跡期間が約5年間でアルコール依存併存群の1/4は死亡していました。(p.201)

厚生労働省の摂食障害の班研究での予後の調査研究の4~6年の転帰調査の結果では、ANBPに限っては16%と高い死亡率です。(p.237)

摂食障害には他の精神科疾患の合併、併存が見られることが多いため、精神科合併症・併存症の有無を調べたり治療するために精神科受診が必要です。  また、精神科合併症・併存症の存在は摂食障害の治療に大きく影響します。うつ病を治療することで摂食障害への治療のモチベーションが高まるなど良い効果が期待できます。

精神科併存症のなかでもアルコール依存症を併存する摂食障害の方の死亡率は群を抜いています。
やせを伴う過食嘔吐の方(ANBP)の死亡率が16%というのも十分脅威的な数字ですが、201ページに記載のある調査では、たった5年間の間にアルコール依存を伴う摂食障害の方の25%が死亡しています。

摂食障害の予後を予測する上で、物質依存の有無は重要な情報となります。

摂食障害患者には、境界性パーソナリティ障害の診断基準に合致する事例にもしばしば遭遇します。治療が撹乱され、医療者が患者に対し、陰性感情を抱くこともありますが、摂食障害患者の多くが、10代で発症し、食事や体型に振り回されながら経過し、こころの成長が十分でないまま成人になる方が多いため、境界性パーソナリティ障害のようにみえる対人関係づくりのまずさも、境界性パーソナリティ障害であるとは必ずしも言えません。(p.42)

摂食障害という症候に出会った時、患者のパーソナリティ障害の存在を見立てる必要性があります。パーソナリティ障害に気付き、それに対処しないことには、これらの患者にとって治療は有効なものとはなりません。(p.194)

境界性パーソナリティ障害を併存する症例の治療的な難しさは異論のないところです。(p.262)

パーソナリティ障害の併存の有無は、摂食障害を治療する上で重要です。
パーソナリティ障害の症状である衝動行為の中に「むちゃ食い」が含まれることもあり、パーソナリティ障害の方で摂食障害の症候を呈する方もいます。

パーソナリティ障害でも、パーソナリティ障害様の症状を伴う摂食障害でも、患者さんの健康な自我が病的な自我に圧倒されていることが予測され、治療の動機づけや治療を継続することが難しいという点は共通しています。

パーソナリティ障害がある場合の治療的なアプローチは高い専門性が必要とされるため、ここにも精神科受診の必要性が挙げられます。

身体合併症について

AN(拒食症),BN(過食症)の病型にかかわらず、摂食障害患者が救急搬送されるケースは決して稀ではありません。悪性疾患でもないのに予後が悪く、合併症死、突然死、自殺などが目立ちます。(p.65)

摂食障害はその病態はさまざまであることから、さまざまな科を受診します。たとえば、自殺企図で精神科救急の適応となる方、衰弱状態・意識障害で救急センターに運ばれる方、中には心肺停止状態で搬送される方もいます。低カリウム血症のため内科で精査入院され、結局下剤使用による電解質異常だったと言う方や、腹部膨満感のために消化器科を受診しながらも食行動異常には触れない方もいます。また、無月経で婦人科を受診される方など様々な病態があります。(p.237)

身体面で救急対応が求められる場合
1 心肺停止(低カリウム血症など各種電解質異常に伴う致死的不整脈、過食による誤嚥による窒息から呼吸不全、重症低血糖に伴う心不全、重症脱水)
2 意識障害、けいれん発作〔低血糖、低ナトリウム血症(電解質異常)、重症脱水〕
3 重篤な身体合併症
 ①腎不全(低カリウム血症による横紋筋融解症)
 ②急性膵炎
 ③胃破裂
4 自殺企図
(p.66~68のまとめ)

自殺や、身体的に重篤で、また突然死というかたちで死亡に至る例も多いことから救急医との連携が欠かせません。(p.237)

摂食障害は死亡する危険性のある、身体疾患と精神疾患が複雑に絡み合った難しい疾患です。身体と精神の治療を並行して行う必要があります。身体合併症の評価、治療のために医療機関受診が必須です。身体合併症が多彩であるために救急科、内科、外科、整形外科、婦人科、歯科などあらゆる専門科の診察が必要になることがあります。

ガイドライン チーム医療について

摂食障害患者の治療はほかの疾患に比べて多くの特殊性をもっています。病識の欠如と治療拒否、痩せによる死亡の危険性、衝動コントロールの不能、反社会的行動、自殺企図など、その対応には多くの職種の医療者が熱意、忍耐、寛容でもって長期にわたり応じなければなりません。わが国でも本症患者が増加する一方で、治療者は慢性的に不足しています。1人の医師が多くの患者を抱えて治療を行うことには限界があります。チームを組んで力を合わせて子の難病に取り組まなければならないでしょう。(p.235)

よって一つの科、1人の医師が一貫して摂食障害にまつわる病態をみきれず、さまざまな科の医師と専門的医師の連携が重要です。まとめると、摂食障害の患者は、身体的危機の場合は救急病院や内科系の病院の受診が必要となり、精神的危機の状態の場合は精神科への受診が必要となり、危機では無い状態であれば、さまざまな科での診察がありえます。専門的医師の間でもその病態によってたがいに紹介し合う可能性があり、非専門医とだけでなく、専門的医師間での連携も必要です。(p.237)

摂食障害の治療には、さまざまな問題点があります。これまでのべてきたような治療ネットワークは整備の途中といわざるをえません。その他摂食障害の治療者の絶対的不足、摂食障害の治療にかかる時間や労力の割には診療報酬の低いこと、摂食障害治療者の疲弊、摂食障害の専門的治療施設の必要性などです。(p.237)

ガイドラインではチーム医療の必要性・重要性が随所にわたって繰り返し説かれています。
緊急事態には救急医にお世話になることもあるでしょう。ときに身体的な見立てや治療のため内科系の病院受診が必要となったり、無月経のときには婦人科の受診、口腔内のトラブルには歯科受診が必要となるでしょう。

摂食障害の治療者の不足という事実は、患者さんが治療を求めて近隣の病院に行くだけではよりよい医療を受けることができないことを示しています。

摂食障害の状態によってはあらゆる専門性のある科の受診が必要であることや、受診が多科にわたるときには医療従事者側の連携が非常に重要となること、などを患者さん自身が知っておくことで、能動的によりよい医療を受けることができます。

ガイドライン 摂食障害治療の医療費

わが国の医療体制では摂食障害にふさわしい医療環境は存在しない状況です。(p.276)

推奨される治療は、摂食障害に対するその時代の考え方や、医療経済事情の影響を受けます。(p.58)

同じ摂食障害でもかかる診療科によって医療費が異なることになります。身体合併症が重篤で生命危機を伴う病態を抱える患者をみている一般科での診療費がいかに安いかが分かります。(p.276)

まだまだ全国的に摂食障害を診やすい医療経済環境とはとてもいえません。生命危機や医療事故と隣り合わせの診療になることも珍しくない治療抵抗性の強い疾患を診るにはあまりにも医療費が低く、それだけでも診たがらない医療施設はたくさんあります。(p.279)

ガイドラインでは、医療経済事情などによって医療にも限界があることなど、現実的な摂食障害医療の問題点にも言及しています。

保険診療内の治療を行う場合、治療ごとに診療報酬が定められています。
摂食障害を主に診ることのある専門科は、精神科、心療内科ですが、精神科に充てられる診療報酬の方がより高く設定されています。診療報酬の面から言えば、精神科の方がよりよい医療を期待できるかもしれません。
しかし、その精神科でさえも外来通院の場合、初診以降は5分以上の診察であれば診療報酬が充てられる仕組みになっています。患者さんに5分間精神療法を行っても、30分間精神療法を行っても、金額的報酬は同じということです。

このように、日本の摂食障害医療の診療体制の不備は明らかであり、保険診療内での治療には限界があると思われます。

摂食障害専門施設が日本に無い現状、医療者の不足、診療体制の不備など、摂食障害医療をとりまく諸々の状況は非常に厳しいものであり、難病である摂食障害が保険診療内の治療のみで治る可能性は極めて低いと言わざるをえません。
保険診療にこだわらず、自費診療も視野に入れた上で最適な治療場所を探す方が良いでしょう。

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