摂食障害(過食症・過食嘔吐・チューイング・下剤乱用)相談
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摂食障害と多重嗜癖(cross addiction:クロス・アディクション)

摂食障害にみられる依存・嗜癖の特徴

摂食障害、過食症は、食べ物という物質に依存し、過食や過食嘔吐、チューイング行為に依存している依存症でもあります。
依存症を治療するときに、多重嗜癖(cross addiction)、クロス・アディクションという概念は非常に重要です。
嗜癖(しへき)に当たる医学英語は addiction (アディクション)です。
嗜癖、アディクション、依存は、ほとんど同じ意味と捉えてよく、コントロールできない悪い習慣のことを指します。

多重嗜癖(たじゅうしへき)とは

嗜癖は、病的に「ハマる」、「のめり込む」状態です。
多重嗜癖とは、嗜癖対象がいくつもあって、それが移ろい、積み重なる状態です。
多重嗜癖は、嗜癖・依存対象の種類が変わったり、「のめり込み具合」が変化したりします。
最初は過食嘔吐だけだったものが、そのうちアルコール依存症も伴うようになると、多重嗜癖の状態です。

「ハマる」「のめり込む」ものは、タバコやお酒だけではありません

タバコ(ニコチン)、お酒(アルコール)や薬物(処方薬の誤用や違法薬物など)の摂取は、物質への嗜癖となります。
嗜癖の指す、コントロールできない悪い習慣は、タバコ、お酒、薬物などの物質への嗜癖に留まりません。
嗜癖は、行為、人間関係にまで及びます。
行為の嗜癖となりうるのは、ギャンブル、セックス、暴力、自傷、万引き、整形、買い物、運動、仕事、インターネット、ゲームなどです。
人間関係の嗜癖となりうるのは、恋愛(男性依存)です。
また、夫婦間暴力(パートナー間暴力)、思春期青年の親虐待(家庭内暴力)、子ども虐待、いじめ、パワーハラスメントなども、人間関係の嗜癖です。

「のめり込み」。どこからが嗜癖なのか

自分でもやめたいと思っているのに、やめられない物や行為、人間関係がある場合、それは嗜癖です。
また、命の危険があるのに、その物質、行為、人間関係を止められない場合、それは嗜癖です。
その物質、行為、人間関係の影響で、日常生活や社会生活が損なわれている場合、それも嗜癖でしょう。
嗜癖は、そこに精神病理が関わっていることを指し示すもので、暴力をふるう加害者の免責性を表すものではありません。

摂食障害の症状が増えるのは自然な流れ

摂食障害、過食症は、食べ物そのものに依存し、過食・過食嘔吐・チューイング行為に嗜癖している病気です。
摂食障害では、下剤や利尿剤、浣腸などの薬物を過剰に、正規の使用法から逸脱して使用することもあります。
薬物そのものと、薬物を使用することで排出する行為に依存しているのです。
依存症というものは、往々にして多重嗜癖を伴うものです。

依存症を治療せずに放置すると、時とともに耐性が生じて、依存対象の量や依存にふける時間が増えていきます。
同じもの、同じやり方、同じ時間、「のめり込ん」でも、以前ほど気持ち良くなれないため、別のもの、別のやり方、もっと長い時間、「のめり込む」必要が出てきます。
依存症のこの特性を考えれば、同時に複数の依存対象があったり、時間とともに徐々に依存対象の種類が増えていくことはむしろ自然な流れです。

「のめり込む」対象が変わり重なりながら、雪だるま式に増えていく

依存・嗜癖対象、つまり、「のめり込む」対象が変わることもあります。
過去に過食、過食嘔吐、チューイングがあったものの、適切な治療を受けることなく症状が止まっている方は、依存対象が変化しただけ、という場合もあるでしょう。
依存症全体でみると、依存対象の量や所要時間、依存度合いなど、依存対象の総数(量)は増えていっているものと思われます。
過食、過食嘔吐、チューイングをせずにすんでいても、ギャンブルにはまっていたり、パートナーに暴力をふるったり、あるいはふるわれたり、子どもを虐待していたのでは、依存症としての病状は悪化の一途を辿っている、ということになります。

依存症を治療する側、される側で知っておくべきこと

摂食障害、過食症の患者さんが多重嗜癖に陥っている可能性は大いにあるでしょう。
摂食障害を患っているのであれば、上記の物質や行為、人間関係に嗜癖していてもおかしくありません。
治療者が依存対象をひとつと見誤ると、ひとつの依存が減った分だけ別の依存が増えている現象を見過ごす、ということが起こり得ます。
依存症治療の大前提として、治療者は、依存症が多重嗜癖を伴いやすいこと、嗜癖の何たるかを熟知しているべきです。

摂食障害、過食症の患者さんに見られる、万引き、性的逸脱、売春、DV(パートナー間暴力など)、虐待は、たまたま摂食障害に併存しているものではなく、多重嗜癖の要素を孕む、複雑ではあるものの、一元的なもの、少なくとも大きなひとつの流れなのです。

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