摂食障害専門 相談センターHOME過食症の告知印刷用パンフレット(詳細版)
ご家族の方へ

過食症、過食嘔吐、むちゃ食い障害、拒食症、摂食障害という病気を知っていますか?
食べることを自分でコントロールできない病気です。
あなたの大切な人が、この病気に苦しんでいます。

このパンフレットを摂食障害という病気を正しく理解するための参考にしてください。
周りの方が摂食障害について正しい知識を持ち、患者さんの苦しさ・辛さを理解することは、患者さんの早期回復に役立ちます。

摂食障害は難病です

摂食障害(過食症、過食嘔吐、チューイング、拒食症、下剤・利尿剤誤用)は、「中枢性摂食異常症」という難病です。
難病は、自然に治る、薬で治る、通院や入院をすれば治る、というような単純な病気ではありません。

難病の定義 ( 厚生労働省 難病対策要綱より抜粋 )

  • 原因不明、治療方針未確定であり、かつ、後遺症を残す恐れが少なくない疾病
  • 経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病

摂食障害は国が決定した難病のひとつであり、心身ともに多大な負担がかかる病気です。

放置すれば、将来的に仕事や家事、育児ができなくなる恐れがあります。
そうなれば、今患者さんがこなしている仕事、家事、育児のすべてを家族や配偶者の方が負担することになります。
摂食障害が極めて重くなれば、起きる、寝る、お風呂に入る、歯を磨く、掃除をする、といった日常生活すらままならなくなり、ご家族の介護が必要になる可能性もあります。

また、精神疾患の中でも摂食障害の死亡率の高さは群を抜いています。
同年代の健常女性の死亡率と比べると、著しくやせている摂食障害の方では20倍以上、やせのない摂食障害の方でも8倍以上の死亡率となっています。

うつ病はその自殺率の高さから、国を挙げて予防・治療事業が押し進められている、代表的な精神疾患です。
摂食障害はうつ病を伴いやすく、摂食障害の死因として自殺や事故が占める割合もかなり大きいことが知られています。
愛する人や家族がいるからこそ辛うじてつなぎとめられている命も少なくありません。
もし大切な人がいなければ自殺したいと思ったことがある患者さんは、センターの相談者の半数以上に上ります。
死んだ方がましだと思うほど、摂食障害は心身ともにつらく大変な病気なのです。

摂食障害は精神疾患に位置付けられていますが、身体合併症が多く、その中には命に関わるような重篤なものもあります。
過食による急性胃拡張からの胃壊死、過食嘔吐による食道破裂などは、緊急手術も必要になるような危険で重篤な身体合併症です。
やせ型で嘔吐症状を伴う場合や、下剤・利尿剤の誤用のある場合、
体内のミネラルバランスの異常(低カリウム血症)から致死性不整脈(心室細動)を起こすこともあります。
この致死性不整脈は摂食障害の方の突然死の原因にもなります。

摂食障害では、さまざまな身体合併症に対し、内科(消化器内科、循環器内科など)、外科、婦人科、整形外科、歯科、救急科など、多科にわたる診察や治療が必要となるでしょう。
また、うつ病、双極性障害や不安障害、パーソナリティ障害などの精神疾患が併存する率も極めて高く、精神科での治療が必要となることもよくあります。

摂食障害は意志が弱いからなる病気ではありません

摂食障害は食べ物に依存する心の病気です。
過食・嘔吐・チューイングは衝動に根差しており、意志の力ではどうにもなりません。
たくさん食べたり(過食)、その後嘔吐したり(過食嘔吐)、食べ物を咀嚼してから飲み込まずに吐きだす(チューイング)行為や、下剤や利尿剤の誤用は、摂食障害の症状で、患者さん自身にはコントロールできないのです。

アルコールや薬物、タバコ(ニコチン)への依存ならば、依存物質を全く摂取しないことが理論上可能です。
私たちの身体は、アルコールやタバコを一切摂取しなくても生きていくことができます。
しかし、食べ物を全く摂らずに生きていくことはできません。
食べることをコントロールできないのに、生きるために適量食べなければならないことに、この病気の難しさがあります。

摂食障害を治すということ

このパンフレットをあなたに渡した患者さんは、摂食障害を治そうとしています。
そして、このパンフレットを渡されたあなたは、患者さんにとってとても大切な存在です。
あなたの対応によって患者さんの摂食障害の病状は悪化も好転もしうるのです。
どうか、あなたへ向けられた患者さんの信頼を、病状の好転に役立ててください。

摂食障害は、国が決定した難病の対象疾患であり、治すことが非常に難しい病気です。
その要因として、摂食障害の患者さんの多くが治すことをあきらめてしまっていること、周りに症状を隠してしまうことが挙げられます。
治療をあきらめていたり、周囲に症状を隠している状態が、摂食障害の慢性・遷延化、難治化に拍車をかけます。

このパンフレットをあなたに渡した患者さんは、摂食障害を治す上で非常に重要な一歩を踏み出しました。
大切な人に、自分の病気について打ち明けることは、治療に向けた大切な一歩なのです。

あなたが、摂食障害について正しい知識を持ち、患者さんを理解してあげることで病状は大幅に改善するでしょう。
患者さんは、自分のことや病気のことを分かってほしいと願っています。

相談センターからのお願い

ご家族にできること

患者さんの摂食障害の病状を悪化させないために、今日からすぐにでも、ご家族ができることをお伝えします。

過食・嘔吐・チューイング・下剤誤用などの症状を無理やり抑えたり、厳しく言ったりしないことです。
具体的には、「食べるな」、「過食するな」、「吐くな」、「もっと食べなさい」など、食べることについて言わないことです。
また、食事や行動を監視したりして、症状を無理やり抑えつけたりしないことです。

ご家族の中には、患者さんを見張って無理やり患者さんが過食や嘔吐するのを我慢させたり、食べることに関して厳しく指導したり、「吐くなら食べるな!」などとこの病気の症状についてきつく言ったりするケースが少なからずあります。
患者さんを思うあまりのことなのでしょうが、周りが摂食障害の症状に関して厳しく言ったり、症状を無理やり抑え込んでも、この病気は悪化こそすれ改善することは絶対にありません。

過食や過食嘔吐、チューイング、下剤誤用は衝動に根差した行動で、自らの意志でどうにかなるものではありません。
それでも、患者さんは何度となく過食・嘔吐・チューイング・下剤誤用をやめようとしてきました。
自らの強い意志をもってしても止められない症状に、患者さんは絶望し、すでに死にたくなるほどの挫折感を味わい尽くしています。
きちんと食事したい、もう吐きたくないと感じながらも、病気のために止められない過食や過食嘔吐、チューイングに最も苦しんでいるのは患者さん本人です。

また、ご家族は叱咤激励のつもりでも、以下のような言葉がけは病状を悪化させるため、厳禁です。
「情けない」、「甘えている」、「怠けている」、「食べ物を粗末にして罰があたる」、「他にも大変な人はたくさんいる」、「働けば治る」、「食べすぎるなんてよくあること」「病気と思うから病気なんだ」などです。
これらの言葉がけは、患者さんを心理的に追い込み、症状の増加をまねくこともあります。

患者さんの多くは、これらの言葉や、もっとひどい罵りの言葉を、すでに何度となく自分自身に浴びせかけてきました。
それでも症状は止まらず、病状は悪化の一途をたどり、今に至りました。
患者さんは自分自身に絶望し、打ちのめされて、疲れ果てています。

自分の食行動がふつうと違うことを、患者さんは知っています。
そして誰よりもそれに悲しんで心を痛めています。
ただでさえ、罪悪感や自己嫌悪で苦しんでいるのに、大切な人からも非難されるようなことがあれば、病状がさらに悪化することは火を見るよりも明らかです。
あなたから説教されたり、叱られたり、責められると、どこにも患者さんの逃げ場がなくなって、周囲に心を閉ざして隠れて症状を出すようになるかもしれません。
患者さんが症状を隠してしまえば、治癒への道は閉ざされ、この病気が治ることは絶対にありません。
病状は坂道を転がるように悪化するでしょう。
これは、治療者にとっても、患者さんを大切に思うあなたにとっても、最も避けなければいけない事態です。

患者さんがあなたに寄せる信頼は、あなたの対応次第で病状が大きく変化するほどのものです。
患者さんの病状の悪化を防ぐため、あなたができることは、過食・嘔吐・チューイングなど病気の症状や、患者さんが食べることに関して、何も言わず、干渉しない、ということです。
そして、これは、今日からすぐにできることです。

あなたに自らの摂食障害を告知することは、患者さんにとって大きな勇気を必要としました。
「受け入れられなかったらどうしよう」、「怒鳴られたらどうしよう」、「食事を監視されるようになったら…」、「お金を取り上げられたら…」
自身に非があってなった病気ではないのに、患者さんはそんな不安や恐怖でいっぱいです。
患者さんがあなたに最も必要としていることは、説教でも監視でも無視でもありません。
ただ、患者さんを優しく見守ることです。

周囲が摂食障害は食べることをコントロールできない病気であると理解するにつれ、徐々に患者さんのありのままの状態を受け入れられるようになります。
そうすれば患者さんの心は楽になり、症状が軽減することもあるでしょう。

さらに、患者さんから大きな信頼を寄せられているあなたにしかできないことがあります。
患者さんを思うあなたの気持ちを、温かい言葉でもって、患者さんに伝えてあげてください。
あなたが患者さんを思う気持ちは、患者さんの回復への原動力となります。

「今まで本当に辛かったね。」
「ひとりでよくがんばってきたね。」
「元気になってくれることが一番だよ。」
「告知してくれてありがとう。」

これらの温かい言葉がけは、何よりも患者さんを励まし、治療への勇気を奮い立たせ、病状の好転をもたらすでしょう。
摂食障害の治療で、患者さん自身が治療に前向きな姿勢であることは最も大切なことです。
そして、辛く苦しい患者さんの心を感じ取り、優しく抱きしめ、家族の総力をあげて、病院や専門の治療機関での治療に取り組んでください。

なお、一時的に症状が止まったことを「治った」と勘違いしてしまうと、何らかのきっかけで症状が出始めたときに過剰に落胆し、自責や罪悪感が強く出ることで、さらに過食や過食嘔吐、チューイングを悪化させてしまうことがよくあります。
症状が止まっただけで安心せずに、回復に向けての具体的な行動をとれるよう、患者さんに協力してあげてください。


『願い』

どうか わかってください
お腹が空くから食べるのではないことを
卑しいから食べるのではないことを

理解するのは難しい
それは私たちも よくわかっている

それならせめて 知っておいてください
食べたくて食べるのではないことを
吐きたくて吐くのではないことを

いくら食べても 終わらないのは
いくら吐いても また食べるのは
満たされないのが 胃袋ではなく 心だから
食べ物では満たせないのに 他にすがるものを知らないから

どれだけ疲れても 止まらないのは
どれだけ嫌になっても また繰り返してしまうのは
もっと辛い気持ちを 心の奥に抱えているから
食べ物が気をそらしてくれなければ 一歩も動けなくなってしまうから


どうか わかってください
ただ太らないために食べないのではないことを
ただやせるために吐くのではないことを

理解するのは難しい
私たちだって 自分に何が起きているのか わからなかった

それならせめて 知っておいてください
お腹がはちきれそうになるまで食べるのは 苦しいことを
胃液がなくなるまで吐くのは 苦しいことを
普通に食事がとれないのは 悲鳴をあげたいくらい 悲しいことを

お金が犠牲になって 時間が犠牲になって 健康が犠牲になって
人間関係や 仕事や 家庭や 人生が犠牲になって
それでも止まらないのは 病気だから
意志の力ではどうにもならない 病気だから


どうか わかってください
それが難しければ せめて知っておいてください

食べたくて食べるのではないことを
吐きたくて吐くのではないことを
私たちは 病気なのだということを

どうか わかってください

誰よりも症状を止めたいのは 私たちだということを
誰よりも病気を治したいのは 私たちだということを

※『願い』は、摂食障害の理解の一助になればと相談者が提供してくれた詩です。


摂食障害(過食症・拒食症・過食嘔吐・チューイング・下剤常用)専門
相談センター
文責:西浦可祝(摂食障害専門 医師)


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